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ココロの森

ココロの森

第12話(NEW)



     第12回 精算という最大の難関






  1998.10.24. やまだ嬢 presents,藤紫 企画立案施行の『イタリア珍道中』も 
  いよいよ最終日を迎えることとなった。

  いろいろあったイタリア・ローマとも今日でお別れ。
  ホントに珍事件盛り沢山の旅だった。


 あとは飛行機に乗って、日本に帰るだけ。
 その航空券は迎えの現地ガイドさんが持ってきてくれることになっているし、
 あと私達がやることといえば、チェックアウトだけだ。
 ミニBar(冷蔵庫の飲み物)やクリーニングなどは一切使っていないので
 あとはただルームキーを返すだけ、

  ・・・のはずだった。


  早朝6時すぎ。
 「Check out, please.」
 と言ってルームキーを返す。
 フロントのセイフティーボックスに預けておいた 
 パスポートと日本円を受け取り、
 フロントのおじさんが発行してくれた請求書兼領収書を見た途端、
 私達は固まった。

  既に精算済みの部屋代の他に
 「aqua」という項目で 一万リラほど追加されているではないか!!

  「aqua」といえば『水』のこと。
 たった一万リラ(約¥700)とはいえ、
 昨日までにリラの札をすっかり使い切っていた私達に そんなお金はない。


  なに?この「aqua」って?? 使ってないよ??

  ・・・そうだ! 思い出した。
 ミニBarを利用するのは高いからと、
 ホテルの前のバールで買って 冷蔵庫に入れておいた水の銘柄が
 確かミニBarにあったものと同じものだったのだ。
  初めの3日間くらいは、1.5リットルの大きなペットボトルを入れていたので
 ミニBarにある小さいものとの違いは明らかだったが、
 昨日一昨日は、
 「もうすぐ帰るから1.5リットルもいらないね」
 と、小さいものを2本、冷蔵庫にいれていた。
 それがミニBarにあったものと、全く同じものだったので
 ホテルの方に勘違いされたのだ。

  でもこの事実を、一体どうやって このフロントのおじさんに伝えよう?

  おじさんは、いつまでも私達が勘定を支払わないので
 これはミニBarの料金だから払えと説明をはじめた。
 お金があれば、面倒だから払ってしまってもいいのだが 
 ないものは払えない。
  どうにかして説明し、おじさんに納得してもらわねば・・・。


  やまだはこの緊急事態にすっかり気が動転し
 「Mio bar aqua!!  Mio bar aqua!!!」
 等と 訳のわからないイタリア語を必死の形相でまくし立てている。
 私が聞いていても「なんだよ?それ?」という目茶苦茶なイタリア語だ。
 やまだのこの発言を、そのまま英訳すると
 「My Bar water!!」
 和訳すると      
 「私のBar『水』!!  私のBar!!『水』!」


  ・・・やまだよ、きみは一体いつから“Bar『水』”の“ママ”になったのだ?
  まさに正真正銘の『おミズ』ではないか。


  私にはやまだの言いたいことはわかるが、
 フロントのおじさんには意味不明、通じるはずがない。
 『こいつ、こんなところで自分の店の名前叫んでどうしようっていうんだ?』
 ってなもんである。

 ものすごく怪訝そうだが、
 しかしやまだのあまりの口撃に いささか引き気味のおじさん。
 そのおじさんを見て「こいつ、まだわかんないのか?」と
 目茶苦茶なイタリア語を叫び続けるやまだ。
 「Mio! bar! aqua!!  ミーオ!バール!アックア!!!」


   この状況では、おそらく一日喚いていても決着は見られないだろう。
   それより私のひどい英語の方が少しはマシかもしれない。


  アクセル全開のやまだを制し、
 今度は私が ゼスチャーを交えながら 
 相当ひどい英単語となってない文法で 何とかこちらの意思伝達を試みる。

  まず伝票の「aqua」を指し示し、
 「This water,buy ・・・えーっと、outside shop ・・・at Thursday.」
 といいながら、ホテルの入り口からわずかに見える、通り向かいのバールを指す。
 「Not used minibar. That shop’s !」

  これまた おじさんは怪訝そうだったが(当たり前だ)
 2度程言い方を変え、繰り返すと ようやく意味が通じたようだ。
  打ち直してくれた伝票をみてみると、「aqua」の文字は消えていた。

   やった!!通じた!!


  何とも言えない達成感である。
 最後の最後で味わったスリルだったが
 私達には『通じた』という満足感のほうが強かった。


  ローマで一週間、鍛え上げられた証であろうか?

  思えばこの一週間、肉体的にも精神的にも
 また感性やコミュニケーション能力も 随分と鍛えられた。
  本当に充実した一週間だった。


  迎えのバスがやってきた。
  いよいよローマともお別れだ。
 行きとは違い、他のツアーの人達に混じって空港に向かう。
 バスだから 今度は飛ばさないだろうと思いきや、
 大人しかったのは巨体では身動きが取りにくい市街地だけで
 高速に乗った途端、あっという間にローマの街並みは見えなくなった。

   まだまだ私達は“鍛え方”が甘いようである。

 私達の甘ちゃんな考えを見透かしたかのように
 現地ガイドのお兄さんが私達の横にやって来た。

 『えー、藤紫様。2名様ですね。
  空港の中では日本語で説明が出来ませんので、バスの中で御説明します。
  こちらが帰りの航空券になります。
  何故4枚あるかと申しますとですね、実はミラノ乗り継ぎになりまして。。。
  いえいえ、御心配なさらなくても大丈夫です。
  このバスの方、全員日本に行かれますから
  皆さんに着いていけば大丈夫です』  にこにこ・・・

  ・・・おいおい、どっかで聞いたセリフだぞ。
  このツアー、往復直行便じゃなかったっけ?

 しかし、今更そんなことを言っても始まらない。
 フィウミチーノ空港に着き、
 お兄さんに言われた通り、みんなのあとについていって出国審査を通過し、
 売店で持っていた小銭を最後の一枚まできっちり使い切った後、
 ミラノ行きの飛行機に乗り込んだ。


  ミラノで東京行きの飛行機に乗り換えると、
 連日の早起きが応えたのか、
 最後の精算事件がボディーブローの様に効いてきたのか
 恐ろしく眠くなって 席に着いた途端に2人ともすぐに眠り込んでしまった。

  ふと目を覚ますと、地上にいた。
  「あれ?もう日本!?」
 びっくりして飛び起きたが、そこはまだミラノだった。
 相変わらずなアリタリア航空、出発が2時間近くも遅れていたのだ。


  やっとミラノを離陸し、
 眼下のイタリアの街並みが雲の下に消えると
 安心感と 一週間分の疲れが同時に押し寄せてきた。

  私達は再び、たちまち深い眠りに落ちていった。




            『イタリア珍道中』 おしまい^^;


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